まず、先生の御経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか?

まず、先生の御経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか?

駿台予備校がスタートなんですが、当時から僕は、知識よりも物事の背景をよく教えていたんです。それが、東大の入試対策にピッタリだったようで、すぐに東大担当になりました。その後、上位大学の専門講師のような形で教えていたところ、東進ハイスクールから「上位大学用講座の厚みを増したいので、ぜひ来てください」と声がかかり、移籍しました。そして、現在は学研プライムゼミですね。「新しい教育のあり方を探ってみよう」ということで、更なるチャレンジがしてみたいと思い、移籍しました。

世界史という教科を選ばれたのは、どんな理由からでしょうか?

純粋に、その世界にすっかり魅了されてしまったからですね。きっかけは、よくシリーズで出ている『世界の歴史』という本との出会いでした。そのなかのイスラーム世界のところをパッと見たときに、「すごいな」と。前嶋先生という方が担当されていたので、高校時代にそのご著書『シルクロードの秘密国:ブハラ』を読んだのですが、本当にロマンチックに人間模様を語る方で、とても面白くて。経歴を見たら、慶應義塾大学文学部東洋史学科教授と書いてあったので、「これは是が非でも慶應に行ってこの先生に教わりたい!」と思って受験し、入学して、念願の前嶋先生の授業を受けました。本や先生や歴史って、人の人生をプラスに変える力を持っていると思うんです。それで、自分もこんなふうに歴史を語れる講師になりたいと思うようになり、予備校の先生になりました。

その本の、どんなところが一番面白かったのでしょうか?

中央アジアのブハラという町の歴史を描いたもので、登場人物たちの人間ドラマが面白いのですが、特に印象的だったのがイブン・シーナーという医師のエピソードです。受験にもよく出てくる『医学典範』という本を書いた英雄ですが、彼はもともと哲学者を目指していました。ところが18歳くらいのとき、12歳くらいの盲目の少女に出会う。

その本の、どんなところが一番面白かったのでしょうか?

この少女に予知能力があり、「あなたはイスラーム世界を変える医師になる」と言われ、実際になるんです。そして後に偶然にもその少女と再会し、本当に目を手術して治すんです。1200年前のことですよ。ああ、いい話だなあと感じ入ってしまって。少女との出会いが彼の人生を変え、夢を抱くきっかけとなったわけです。人が夢をもつきっかけや、その実現までの過程を知るには、世界史はまさにネタの宝庫なんですよ。

本当に、単なる受験勉強にとどまらない、大きな意義が含まれているわけですね。
では次に、印象に残った生徒さんについてお伺いしてもよろしいでしょうか?

たくさんいるんですが、ある都市の「東大クラス」でコロンブスの新大陸発見について授業でやったら、ある男の子がすぐ質問に来たんです。「先生、新大陸ってどこにあるんです?」って。どうも彼はムーとかアトランティスとかだと思ったらしくて。かなり衝撃的ではありましたが、その生徒も東大に受かったんですよ。つまり、素直な子、恥ずかしがらずに真っ向から常識を疑っていく子は、吸収力がすごいので驚くほど伸びるんです。また、大学に受かって何をやるか、目標を先の方に置いている子はだいたい受かります。自然とモチベーションが上がるからか、力以上のものが出てくる。
ところが、目標が低かったり、大学に受かることだけを目標にしてしまったりする子は、なかなか難しいですね。

では、これまで世界史を教えてこられたなかで、ここが変わったなというところがあれば、お教えいただけますか?

世界史はよく、表記が変わります。たとえば、世界一周を成し遂げたマゼランを「マガリャンイス」と言ったり、また元に戻ったり。当然、こうしたところには注意を払いますが、一番変わったと感じるのは、受験で、昔は細かい知識が問われたのが、今は物事の因果関係や意義を問うものが多くなってきたということ。だから、知識の暗記だけではもう太刀打ちできません。こうした受験傾向の変化にはいろいろな要因があると思いますが、一つには、ある種の原点回帰があるのではないかと思っています。

では、これまで世界史を教えてこられたなかで、ここが変わったなというところがあれば、お教えいただけますか?

かつて、ノーベル賞を取った湯川秀樹先生や朝永振一郎先生の時代には、理系文系の垣根なく、すべてを教えていました。湯川先生の中間子理論も中国の老荘思想がヒントになっているといいますし、朝永先生はゲーテの研究家でもありました。ところが、ある時代から受験が暗記中心に変わり、理系は理系だけ、文系は文系だけをやるようになった。すると、その弊害か、ものをつくる想像力や発想力をもった人材が激減してしまったんです。そこでまた今、原点に戻ろうという動きが出てきて、科目横断の様相も強まっています。
 たとえば、早稲田のある学部の世界史の入試問題は、問題文も解答もすべて英文。世界史と英語の融合です。世界史は当然日本史とも融合していますが、日本史が入ると日本の古典も入ってくる。少し大変に思うかもしれませんが、やはりそういう学びが、本来の人としての教養をつくっていくのだと思います。これにより、ものを生み出せる人間をつくりたい。教育の変化の根底には、それがあると思います。

そういう変化のなかで、大学入試改革についてはどう受け止めていけばよいでしょうか?

教育の世界のその流れは基本的に変わらないと思うので、やはり暗記一辺倒ではなく、より深く考える問題になっていくという認識でよいのではないかと思います。学問というのは本来謎解きなので、覚えろと言われたことをただ覚えるのではなく、自分の頭で考え、素直に疑問をもってもらいたいんです。
 たとえば、「祇園精舎の鐘の声」で始まる、古典の『平家物語』の冒頭部分一つにも、ものすごく多くの謎が隠されています。この鐘の音はどんな音なのか。なぜ、「音」ではなく「声」なのか。「沙羅双樹の花の色」って何色なのか。答えは白ですが、源平では源氏が白、平家が赤の旗を持っていたので、権力図の流転と読めるかもしれない。また、色というと「色即是空」が浮かび、ここにも移り変わりの意を読み取れるかもしれない。「理」というのも実は、当時は華厳宗の人々だけが使った特別な用語だったんです。みんなただ鵜呑みにするように暗記しているけれど、よく考えるとかなり意味深です。すごいものって、必ず書いた人が仕掛けをするんですよね。
 これからは、こうした仕掛けを紐解くような問題が、受験でも出る可能性があります。だから、もっと謎解きするかのようにワクワクしながらいろいろなものに向き合ってほしい。学問とは、本来そういうものなんです。

では最後に、受験勉強に励んでいる高校生たちへのメッセージをお願いします。

好きな言葉はたくさんあるのですが、先ほども触れた湯川先生が、若い人に向けて贈った言葉をご紹介したいと思います。「未来を過去のように考えよ」という言葉です。これは「未来を過去、つまり既に叶ったものと思いなさい、すると実現しますよ」という意味なんですね。聖書のなかの「既に得られたと信じなさい。そうすれば、そのとおりになる」という言葉が元になっているのですが、湯川先生はこれをご自身の理論「素領域理論」から説いたわけです。

では最後に、受験勉強に励んでいる高校生たちへのメッセージをお願いします。

未来って、型が決まったものがいくつかあるらしいのですが、そのなかで熱量が入った未来だけが動いていくという理論なんです。だから、「受かった」未来もあれば、「落ちた」未来もあるわけです。でも、成功したという未来に情熱を注ぎ込み、「叶った」と思った瞬間に、人生はその方向に向かっていく。
 だから皆さんも「合格したんだ」と、未来を過去のように捉えながら、その未来に熱量を注ぐべく、日々の受験勉強を頑張ってほしいなと思います。

大学入試改革2020/ INTERVIEW

斎藤整 先生

学研プライムゼミ特任講師
世界史

斎藤 整 先生

早慶受験者クラスを中心に東大や難関大学受験者までを指導する。授業では教科書には載っていないようなエピソードが語られるので、世界史への興味が高まる。板書は過去問の研究に基づいてポイントがおさえられており、わかりやすい。論述対策も丁寧と評判。